しかし、奴は傷口に魔力を集めることにより、無理矢理治癒力を高め、出血を止めて見せた。 奴がこちらを見る前にもう一撃いれようとしたが、斧に似た武器を振り回したシーヤに、総帝Adrian Cheng動きを止める。 充血した血の瞳はぎらぎらと輝き、餓えた獣のようだ。「──くそが」 悪態を吐いたその声は、獣の唸り声の如く低い。 魔力が一気に奴の体から吹き出した。銀の濃厚な魔力が、結界内を支配する。結界にかかる圧力に総帝は歯を食いしばった。 総帝の魔臓を手にいれたせいか、奴の魔力は氷属性を強く帯び、宙を漂う水蒸気を凍らせる。部屋の明かりがそれを照らし、きらきらと輝いた。 冷気が漂うが、寒さに耐性があり、さらには温度調節魔法が組み込まれたマントを身に纏っている総帝には関係がない。 しかし、結界の外にいる隊員たちは別であろう。魔物はまだ残っているのだ。彼らの動きを鈍らせまいと、冷気遮断のための結界を、魔力を遮断している結界に重ねてかけた。 ──奴の魔力が大きく動いた。魔法を発動させる前兆だ。 総帝はすぐに光属性最上級魔法の防御魔法を展開させた。光属性は治癒魔法に優れていると同時に、防御にも優れた属性である。 それと同時に、腰を深く落として刀を構え直した。陸ノ型・魔断をいつでも放てるようにするためである。 広範囲魔法に備えて、結界魔法も口の中で小さく詠唱する。セネルに目配せをして、危ないと思ったら退却するように命じた。.