"「……まさか、覚えて、ない?」 ズキズキと痛む頭を押さえて、真宮は「朧氣には」と顔を顰めながらあたふたと答えた。 (大河の店で飲み過ぎて、赤坂の路地で、醜態を晒し……何かにキスして頬を撫でられ、興味があると言われ……容赦しないと告げ……そうだ、名前を聞いた……) *** ――一眠りしたお陰で、酔いがすっかり醒めた様子。 真宮が目を醒ますと、2時過ぎ。どうにも二日酔いが酷いが、何とか周りを見回して、目を見開いた。 「どこだ、ここ……」 隣の布団がもこっと動いた。 (誰かがいる?......また、行きずりで男でも引き込んだか、俺は) 「ここはどこだ……あの、すみません」 ばっと布団が持ち上がった。 ――全裸の女性! 驚愕で口を開けた真宮に、わっと抱きついて来た。ポワンと胸が揺れて擦り付けられて、真宮は狼狽した。 (あ、あの……おむねが……ぽよんと) 女性は大きな目にウルウルと涙を溜めていた。 「こ、こわかった……こ、こわ……!バカ、鬼、悪魔!だいっきらい! まだまだですって何!」 ぶるぶると震えて抱きつく女性の背中の傷に気付く。 ――どこかで、こんな傷を負った女優がいたような……真宮の脳裏には職業上たくさんの女優のデータがあるが、ヒットはしない。 ――しかし、この、状況は……。 たらりと自分の周りに散乱した性交の残骸を見詰める。どうみても、アレな状況である。 記憶の霞む断片を繋ぎ合わせて真宮は蒼白の心境になった。 「あの、もしかして……何か失礼なことを……あの、ちゃんと説明していただければっ!す、すみません!!」 女性の腕を外し、真宮は平身低頭で頭を女性の膝に擦り付けた。女は洟を啜った。 「……まさか、覚えて、ない?」 ズキズキと痛む頭を押さえて、真宮は「朧氣には」と顔を顰めながらあたふたと答えた。 (大河の店で飲み過ぎて、赤坂の路地で、醜態を晒し……何かにキスして頬を撫でられ、興味があると言われ……容赦しないと告げ……そうだ、名前を聞いた……) 「智花さん、でしたね」 女性のご機嫌取りはファーストネームに限る。はずだが、 逆効果だったらしい。 雲行きが怪しくなった。 「それは捨てた名前!な、なによ、あんなにへべれけだったのに!あたし。初めてなのに!し、信じられない!この、ケダモノぉっ!"